2010年 10月 10日
ナムディ村の少女
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「サバイディ~」
いたずらっぽいその声が山の斜面にこだまして、その声の出所がすぐにつかめなかった。
斜面の下のほうにいる二人の少女を見つけ、その子たちにカメラを向けると、
「キャ~」
と言って家の後ろに回り込んでしまった。
私はゆっくり降りていくと、またさっきの子たちが家の影から現れ、
「サバイディ」
と言いながら好奇心いっぱいの表情でこちらに寄ってくる。
よし、今度は大丈夫かな、とカメラを向けると、また
「キャ~」
と言って逃げてしまった。
やれやれ
私は手にしたコンパクトデジカメを一度ポッケにしまい、ゆっくりと家を回りこむ。
その家の正面玄関側にくると、目の前の一本の木の横に少女たちが立っていた。
ここがこの子たちの家なのだろうか。もう私が近づいても逃げようとはしなかった。
少女の一人が枝を指差しながら何かを言っている。緑から赤に変わろうとしている小さな木の実がついていた。
少女がその木にのぼり一つの実を採ると、その小さな手を私のほうに伸ばし、掌を広げるとその実を置いた。
口の中に入れてみる。イチゴのような小さな種のプチプチ感とジュウシーな瑞々しさはいいが、甘味も酸味も感じられず、そんなに食べたいというものでもなかった。
でも、好きじゃないというのもおとなげないし、
- アローイ -(おいしい)
と言うと、少女は木の実を採りながらまたさらにのぼっていった。
私は上へ上へとのぼっていく少女が降りられなくなるのではないだろうか、と心配になってきた。
上にあがるときは自分の背丈のぶん低く感じるのだけれど、逆に上から見下ろすときは自分の背丈が加わるのでとても高く感じることは、私たち大人なら誰でも知っている。
少女は私のために無理に上のほうまでのぼってしまったのではないだろうか。そして、もう一人の子は全くのぼろうとはしない。一度木から落ちたことのある子は、その恐怖心からもうのぼれなくなることは知っている。また、こんな自然の中で育った子でも、私のように高所恐怖症の子もいるのかもしれない。
私の心配もよそに、その子は私の目線のところまで降りてくると、その小さな手に収まった木の実を私の掌にのせた。
少女はまだ遊び足らないように、木の枝に両手でぶら下がってブランコのように体を前後にふっている。私がぶら下がったら折れてしまうであろうその枝も、少女の体ではいい具合にしなっていた。
「ねえねえ、この家の下に行こうよ。」
その小さな手を、しゃがんだ私の肩に置きながら言った。
気がつけば、子供たちが4人、5人と集まっていた。
村の集会場のような場所に出ると、子供たちはそれぞれの木の名前を教えてくれた。
見上げると、タマリンドやサボン、パパイヤの実をつけている。この村に植わっているのはどれも実のなる木のようだった。
私は再びポケットからカメラをとりだし、かわりにもらった木の実をポケットに入れた。
一人の少年がカメラに写りたがっていた。でもカメラを向けると、急に恥ずかしい表情にかわった。それでも、写っている自分の姿に、少年も、一緒にいたほかの子たちも大はしゃぎした。
近くの家の中から大人の大きな声が聞こえてきた。
「ねえ、私も撮って。」
ずっと私のカメラから逃げ回っていた少女が私の目の前に立った。
やや逆行ぎみであることと、背景が気になっていた。
でも、早くシャッターを押したかった。そうしないと、少女はまた
「キャ~」
と言って逃げてしまうような気がした。
それに、この場所を大事にしたかった。私と、少女が、正面から向き合ったその場所を。
さっきの大人の声を気にしたのだろうか。子供たちは集会場の広場の隅まで私を連れて行くと、
「ここを降りていったら帰れるから。」
と、私を促した。
私はその斜面を下る途中いちど振り返ると、もう子供たちの姿は見えなかった。
まるで狐にでも化かされたかのように、静寂が広がっていた。
ゲストハウスに戻り、ズボンのポッケに手を入れたとき、ヌルッとしたものが手に触れた。
何?と思ってとりだすと、少女からもらった木の実のいくつかが潰れていた。
なんか、最後まであの子には振りまわされちゃったな。
いたずらっぽいその声が山の斜面にこだまして、その声の出所がすぐにつかめなかった。
斜面の下のほうにいる二人の少女を見つけ、その子たちにカメラを向けると、
「キャ~」
と言って家の後ろに回り込んでしまった。
「サバイディ」
と言いながら好奇心いっぱいの表情でこちらに寄ってくる。
よし、今度は大丈夫かな、とカメラを向けると、また
「キャ~」
と言って逃げてしまった。
私は手にしたコンパクトデジカメを一度ポッケにしまい、ゆっくりと家を回りこむ。
その家の正面玄関側にくると、目の前の一本の木の横に少女たちが立っていた。
ここがこの子たちの家なのだろうか。もう私が近づいても逃げようとはしなかった。
少女の一人が枝を指差しながら何かを言っている。緑から赤に変わろうとしている小さな木の実がついていた。
少女がその木にのぼり一つの実を採ると、その小さな手を私のほうに伸ばし、掌を広げるとその実を置いた。
口の中に入れてみる。イチゴのような小さな種のプチプチ感とジュウシーな瑞々しさはいいが、甘味も酸味も感じられず、そんなに食べたいというものでもなかった。
でも、好きじゃないというのもおとなげないし、
と言うと、少女は木の実を採りながらまたさらにのぼっていった。
私は上へ上へとのぼっていく少女が降りられなくなるのではないだろうか、と心配になってきた。
上にあがるときは自分の背丈のぶん低く感じるのだけれど、逆に上から見下ろすときは自分の背丈が加わるのでとても高く感じることは、私たち大人なら誰でも知っている。
少女は私のために無理に上のほうまでのぼってしまったのではないだろうか。そして、もう一人の子は全くのぼろうとはしない。一度木から落ちたことのある子は、その恐怖心からもうのぼれなくなることは知っている。また、こんな自然の中で育った子でも、私のように高所恐怖症の子もいるのかもしれない。
私の心配もよそに、その子は私の目線のところまで降りてくると、その小さな手に収まった木の実を私の掌にのせた。
少女はまだ遊び足らないように、木の枝に両手でぶら下がってブランコのように体を前後にふっている。私がぶら下がったら折れてしまうであろうその枝も、少女の体ではいい具合にしなっていた。
「ねえねえ、この家の下に行こうよ。」
その小さな手を、しゃがんだ私の肩に置きながら言った。
気がつけば、子供たちが4人、5人と集まっていた。
村の集会場のような場所に出ると、子供たちはそれぞれの木の名前を教えてくれた。
見上げると、タマリンドやサボン、パパイヤの実をつけている。この村に植わっているのはどれも実のなる木のようだった。
私は再びポケットからカメラをとりだし、かわりにもらった木の実をポケットに入れた。
一人の少年がカメラに写りたがっていた。でもカメラを向けると、急に恥ずかしい表情にかわった。それでも、写っている自分の姿に、少年も、一緒にいたほかの子たちも大はしゃぎした。
近くの家の中から大人の大きな声が聞こえてきた。
「ねえ、私も撮って。」
ずっと私のカメラから逃げ回っていた少女が私の目の前に立った。
やや逆行ぎみであることと、背景が気になっていた。
でも、早くシャッターを押したかった。そうしないと、少女はまた
「キャ~」
と言って逃げてしまうような気がした。
それに、この場所を大事にしたかった。私と、少女が、正面から向き合ったその場所を。
「ここを降りていったら帰れるから。」
と、私を促した。
私はその斜面を下る途中いちど振り返ると、もう子供たちの姿は見えなかった。
まるで狐にでも化かされたかのように、静寂が広がっていた。
ゲストハウスに戻り、ズボンのポッケに手を入れたとき、ヌルッとしたものが手に触れた。
何?と思ってとりだすと、少女からもらった木の実のいくつかが潰れていた。
なんか、最後まであの子には振りまわされちゃったな。
by asiax
| 2010-10-10 22:17
| ラオス