2007年 06月 08日
サイゴン行きバス
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ヴィンロンからサイゴンへ戻るため、バイクタクシーをつかまえてバスターミナルまで、と行き先を告げる。1万ドンが相場だろうと思っていたら、バイタクの男は5千ドンでいいと言う。
ベトナムで自分の想定額よりも安いことはなかったので、予想外の展開に戸惑った。
やがて、彼はバスターミナルではなく、ビルの1階のガレージに停めて私をそこに降ろした。それはローカルバスでなく、民間のミニバスだろう。彼はここでマージンを得るために5千ドンで私をつれてきたのだ。まあローカルバスでもミニバスでも日本円で200円も違わないし、それでエアコン、ミネラルウォーターがつくし、これはこれでいいかな、と思った。
待合席にいる人たちも若い女性や中流階級風の男性が目立ち、ローカルバスに乗る人たちとは違う雰囲気があった。
やってきたミニバスも欧風の新しいワゴンだった。みんなの後について乗り込もうとすると、すぐ正面の席にいる若い女性がこちらにどうぞ、と手招きする。ああ、何かいいかもしれない、と彼女の横に着こうとした矢先、バスのスタッフがあなたの席はその後ろだ、といった感じで止められた。
その後ろの席にも若い女性が座っていた。ただ、こちらに関心がないのか、それとも面倒なのが隣にきてしまったと考えていたのか、つんとした感じで私と目を合わせることもなく、窓の外を眺めていた。私の目に映ったのは赤いシャツとジーンズだけだった。
バスがサイゴンの町に入り、バスはバスターミナルへは向かわず、またそのバス会社の事務所であろうビルのガレージに止めた。一体ここはサイゴンの町のどのあたりなのだろう。町の中心地、ベンタインにはどうやって行こうか困ったが、歩き方の地図を広げバス路線図を見ると、ベンタインに行く27番のバスが通りすぎるのが見えた。すると後はどちらの進行方向がベンタインか分かればバイタクに頼まなくても行けそうだ。
とりあえずガレージを出てみると早速客待ちしていたバイタクの男が寄ってきた。私がバスで行くというと、案の定、彼はバスはないよ、と嘘をつく。私はガイドブックの地図を見せて27を指し、セブイッ(ベトナム語でバス)を連呼する。あきらめた彼は親切にもベンタイン方向と、バスがきたら手を水平に伸ばせばどこでも停まってくれる、ということを教えてくれた。
少ししてガレージから出てきた子がやはりバイタクの男を何とか振り切ろうとしていた。赤いシャツとジーンズ、私の隣に座っていた彼女だ。そこではじめて彼女と目が合った。
- ベンタイン? -
と尋ねると彼女は恥ずかしそうな笑顔で頷いた。それなら一緒にここで待ちましょう、と思っていたら彼女は歩道を歩きはじめ、ついてきてください、といった表情でこちらを伺った。あれ?待っていればバスは停まってくれるとバイタクの人は教えてくれたのだけど、とりあえず彼女についていった。
少し歩いて振り返るとバスが来ていたが、彼女が手を伸ばしたのにバスは気付かず行ってしまった。あどけなさの残る彼女の顔にビルの照り返す光が容赦なく襲いかかる。彼女が両手で重そうに運んでいる籠を私が持ってあげた。かぶせてあるビニールの隙間からフルーツが見えた。もしかしたら、彼女はヴィンロン郊外の田舎に住んでいて、サイゴンにはじめて出てきたのではないだろうか。交差点で立ち止まるとまたバイタクがやってきて彼女は交渉をはじめた。そして荷物をのせ、バイクにまたがる彼女を見て、ああ、もうお別れだな、と思った。
しかし、彼女は後ろに乗ってくださいという表情でこちらを見つめる。
えっ?
3人乗りは別に東南アジアでは珍しいことではないし、他の国でも経験はある。ただ、どこの誰か知らない彼女と乗ることに驚いたのだ。それにどちらがいくら払うかも分からない。バスを待てば3000ドンで済むし、躊躇した。でも、私は何か試してみたいな、と思った。
走るバイクの上で、バイタクの男と彼女は少し強い口調でやりとりを続けていた。おそらく金額でもめているのだろう。バイタクの男は2人も客を乗せているし、彼女はサイゴンの物価を知らないだろうし、折り合いはつかないだろう。
ブレーキを踏み、前のめりになるたび、彼女の後ろで束ねた髪が私の顔をくすぐる。
数分後、バイクは見覚えのある場所にやってきた。そこはカントーに行くとき利用した南部方面行きのバスが集まるミエンタイバスターミナルだった。切符売り場にバイクを止め、バイタクの男と彼女は、さあどこに行きたいのだ、といった表情でこちらを見つめる。
さあ、どこだといわれても私は南部のヴィンロンからやってきたのだ。どうしてまた南部に戻らなければならないのだ。
- ミエンタイじゃないよ、ベンタインだよ。 -
もういい、とりあえずここまでくればあとは来るときに使った2番のバスに乗ればいい。ちょっと足りないとは思うけど、2万ドンを払ってあげた。これで少しは彼女の負担も減るだろう。
結局、彼女の名も知らないまま別れた。
ちょっと遠回りをしたけれど、小さな冒険だった。
こうしてベトナムのたびは終わった。
夕方、サイゴンの灰色の町に、学校帰りの純白のアオザイ女性が妖精のように通りすぎる。
ベトナムで自分の想定額よりも安いことはなかったので、予想外の展開に戸惑った。
やがて、彼はバスターミナルではなく、ビルの1階のガレージに停めて私をそこに降ろした。それはローカルバスでなく、民間のミニバスだろう。彼はここでマージンを得るために5千ドンで私をつれてきたのだ。まあローカルバスでもミニバスでも日本円で200円も違わないし、それでエアコン、ミネラルウォーターがつくし、これはこれでいいかな、と思った。
待合席にいる人たちも若い女性や中流階級風の男性が目立ち、ローカルバスに乗る人たちとは違う雰囲気があった。
やってきたミニバスも欧風の新しいワゴンだった。みんなの後について乗り込もうとすると、すぐ正面の席にいる若い女性がこちらにどうぞ、と手招きする。ああ、何かいいかもしれない、と彼女の横に着こうとした矢先、バスのスタッフがあなたの席はその後ろだ、といった感じで止められた。
その後ろの席にも若い女性が座っていた。ただ、こちらに関心がないのか、それとも面倒なのが隣にきてしまったと考えていたのか、つんとした感じで私と目を合わせることもなく、窓の外を眺めていた。私の目に映ったのは赤いシャツとジーンズだけだった。
バスがサイゴンの町に入り、バスはバスターミナルへは向かわず、またそのバス会社の事務所であろうビルのガレージに止めた。一体ここはサイゴンの町のどのあたりなのだろう。町の中心地、ベンタインにはどうやって行こうか困ったが、歩き方の地図を広げバス路線図を見ると、ベンタインに行く27番のバスが通りすぎるのが見えた。すると後はどちらの進行方向がベンタインか分かればバイタクに頼まなくても行けそうだ。
とりあえずガレージを出てみると早速客待ちしていたバイタクの男が寄ってきた。私がバスで行くというと、案の定、彼はバスはないよ、と嘘をつく。私はガイドブックの地図を見せて27を指し、セブイッ(ベトナム語でバス)を連呼する。あきらめた彼は親切にもベンタイン方向と、バスがきたら手を水平に伸ばせばどこでも停まってくれる、ということを教えてくれた。
少ししてガレージから出てきた子がやはりバイタクの男を何とか振り切ろうとしていた。赤いシャツとジーンズ、私の隣に座っていた彼女だ。そこではじめて彼女と目が合った。
- ベンタイン? -
と尋ねると彼女は恥ずかしそうな笑顔で頷いた。それなら一緒にここで待ちましょう、と思っていたら彼女は歩道を歩きはじめ、ついてきてください、といった表情でこちらを伺った。あれ?待っていればバスは停まってくれるとバイタクの人は教えてくれたのだけど、とりあえず彼女についていった。
少し歩いて振り返るとバスが来ていたが、彼女が手を伸ばしたのにバスは気付かず行ってしまった。あどけなさの残る彼女の顔にビルの照り返す光が容赦なく襲いかかる。彼女が両手で重そうに運んでいる籠を私が持ってあげた。かぶせてあるビニールの隙間からフルーツが見えた。もしかしたら、彼女はヴィンロン郊外の田舎に住んでいて、サイゴンにはじめて出てきたのではないだろうか。交差点で立ち止まるとまたバイタクがやってきて彼女は交渉をはじめた。そして荷物をのせ、バイクにまたがる彼女を見て、ああ、もうお別れだな、と思った。
しかし、彼女は後ろに乗ってくださいという表情でこちらを見つめる。
えっ?
3人乗りは別に東南アジアでは珍しいことではないし、他の国でも経験はある。ただ、どこの誰か知らない彼女と乗ることに驚いたのだ。それにどちらがいくら払うかも分からない。バスを待てば3000ドンで済むし、躊躇した。でも、私は何か試してみたいな、と思った。
走るバイクの上で、バイタクの男と彼女は少し強い口調でやりとりを続けていた。おそらく金額でもめているのだろう。バイタクの男は2人も客を乗せているし、彼女はサイゴンの物価を知らないだろうし、折り合いはつかないだろう。
ブレーキを踏み、前のめりになるたび、彼女の後ろで束ねた髪が私の顔をくすぐる。
数分後、バイクは見覚えのある場所にやってきた。そこはカントーに行くとき利用した南部方面行きのバスが集まるミエンタイバスターミナルだった。切符売り場にバイクを止め、バイタクの男と彼女は、さあどこに行きたいのだ、といった表情でこちらを見つめる。
さあ、どこだといわれても私は南部のヴィンロンからやってきたのだ。どうしてまた南部に戻らなければならないのだ。
- ミエンタイじゃないよ、ベンタインだよ。 -
もういい、とりあえずここまでくればあとは来るときに使った2番のバスに乗ればいい。ちょっと足りないとは思うけど、2万ドンを払ってあげた。これで少しは彼女の負担も減るだろう。
結局、彼女の名も知らないまま別れた。
ちょっと遠回りをしたけれど、小さな冒険だった。
こうしてベトナムのたびは終わった。
by asiax
| 2007-06-08 21:34
| ベトナム